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著述家/英国陶器スージー・クーパー研究家  飯塚恭子さん
第3回 チャッツワースのらっぱ水仙

英国の春の花と言えば、「スイセン」。それも、日本の水仙ではなくラッパ水仙を指します。
4月、ちょうどイースターの頃に英国のあちこちで見られるラッパ水仙は、
黄色いカラーも明るく春めいているからでしょうか。
春の訪れをあらわすのにはぴったりの花のようです。

私は2年前の春にチャッツワースを訪れた際、広大な敷地内のあちこちに咲き誇るラッパ水仙の花の群生に心踊りました。
チャッツワースのデヴォンシャー公爵家は、ダイアナ元皇太子妃の出身であるスペンサー伯爵家と繋がる貴族で、
ここに初代スペンサー家のジョージアナ・スペンサーが嫁いだのでした。
それは1972年のことでした。
ジョージアナは素晴らしいセンスと美貌の持ち主で、当時のファッションリーダーとして有名でした。
また享楽的な生活が大好きで、フランスにもよく遊びに出かけていたようで、
当時のフランス王妃マリー・アントワネットとも交流があったとされています。

私はある文献でアントワネットと親しかったということを知っていましたが、
ダイアナ元皇太子妃がご成婚の際に付けられていたティアラがスペンサー家に代々伝わるもので、
「フランス王妃マリーアントワネットからの贈り物ではないかといわれているもの」という話を読み、
これこそがデボンシャー公爵夫人だったジョージアナがアントワネットから贈られた貴重なティアラだと思い興奮したものです。
つまり、私たちはあのダイアナ妃とチャールズ皇太子とのご成婚の衛星中継で、
フランス革命で断頭台の露と消えたマリー・アントワネットが所有していたティアラを見ることが出来たのですから!
(因みにキャサリン妃は民間ご出身ですので、ご成婚時のティアラはエリザベス女王が御貸しされたそうです)

そんな公爵夫人ジョージアナは、結婚生活には全く幸せを見いだせなかったのでした。
公爵家はロイヤルファミリーとも繋がる貴族階級ではトップの座。
しかし、社会的な地位や名誉、財産にも恵まれていたにも関わらず、彼女の人生は不幸でした。
第五代デボンシャー公爵ウイリアム・キャベンデイッシュに見初められ結婚したものの、
公爵には結婚前に愛人に産ませた子がいたり、跡取り息子をなかなか産めないジョージアナに無関心になり、
彼女の友人の離婚歴のある子連れのエリザベスと仲良くなるとエリザベスを館に呼び寄せ一緒に住ませたり。
この「妻妾同居」の奇妙な三角関係を救ったのが、チャールズ・グレイ。
お紅茶好きならピンと来るはず。
そう、彼の父、グレイ伯爵こそ、あのベルガモットの香り豊かな紅茶の名品“アール・グレイ”の生みの親です。
さて、ジョージアナは政治家だったチャールズとの間に女児さえも生んでしまうほど
愛し合ってしまったのですが、公爵家としてはすべてを「見て見ぬふり」として解決。
愛人関係を持つ公爵から逃れられないジョージアナは子供をグレイ家に引き渡し、すべては無かったことになったのでした。

そんな公爵夫人のカントリーハウス、チャッツワースの館のラッパ水仙はいったいいつの時代から咲き乱れているのでしょうか。
このジョージアナの人生を悲劇の死を遂げたダイアナ元皇太子妃になぞられる人も
少なくないのですが、貴族階級には結構こういったお話は多いもの。
たぶん、貴族という階級社会に生き、館を守り続けなければならない宿命を背負った人間にしか
わからない苦悩もあったのでしょう。 ジョージアナも結婚当初17歳、公爵は28歳。
二人とも不器用にしか相手を愛せなかったのではないでしょうか。
そんな哀しみさえも感じる、余りにも広大なチャッツワースの館に広がる見事なラッパ水仙。
本当に心から春の喜びを感じずにはいられない自然の美しさ。
悲しみの中、何度も絶望しながらも生きたジョージアナも、
この春の訪れとともにチャッツワースの館に咲く誇るラッパ水仙に目を奪われ、
そして心踊る希望の季節が巡ってきたことを実感していたことを願うばかり。

みなさんも是非チャッツワースに訪れた際には、
ジョージアナが散策したであろう広大な庭をゆっくり歩いてみてはいかがでしょうか。
きっと心が何かを発見するか、あるいは何かの気づきがあるに違いありません。
特徴ある絵は意味あるストーリーとともに愛されています。

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