著述家/英国陶器スージー・クーパー研究家 飯塚恭子さん
第1回 英国陶器 「スージー・クーパー」
「スージー・クーパー」という英国陶器をご存じですか?
スージー・クーパーとはエインズレイと同じく陶郷と呼ばれる
スタッフォードシャー、ストーク・オン・トレント出身の女流陶芸デザイナーであり、
自分の陶器のブランド「スージー・クーパー」を立ち上げた実業家です。

彼女の生まれ故郷にはロイヤルドルトン、ウエッジウッドなど名陶の窯があり、
当時は陶器産業の全盛期でした。ヴィクトリア時代のアフタヌーンテイーの普及は
一般家庭にまで及び、それはテーブルウエアの普及にも影響を与えました。
1902年生まれのスージーの食器類は今ではすべてアンテイークショップでしか手に入りませんが、
彼女はカップ&ソーサーだけでなく、テーブルウエアからインテリアに至るまでの統一感を大切にして、
フィギュアや壁飾り、そしてランプ台に至るまで自らのこだわりを反映させました。
エインズレイ社の食器が英国ロイヤルファミリーに愛されてきたように、スージーの食器もまた
同じようにメアリー王妃、エリザベス女王とクイーンマザーに愛され続け、
女性初の「ロイヤルデザイナー」として認められました。
ロイヤルファミリーは、たいてい展示即売会で購入されるか、
あるいは特別注文でした。
当時は今のように転写技術が発達していなかったので、
初期の頃はハンドペイントのみ。
たまに絵が違ったりするのもご愛嬌でした。

そういうものは現在アンテイーク業界では「レアもの」として高値で取引されています。
そんなスージーの作品で最も日本で有名なものが、
この「パトリシアローズ」。
これは転写技術が発達した1937年に完成。
英国ではもちろん、時代を経て日本でもアンテイークファンに
大変人気のあるデザインで、俗に「ピンクのバラ」とも呼ばれて
います。

バラは英国の国花ですし、デザイナーたちが一度は試みたい花なのでしょう。
多くの陶器会社と違って、スージー・クーパーは一代限りの窯ではありましたが、
彼女が残した功績は大きく、女性の社会進出には特に影響を与えました。
そして晩年はカジュアル化するテイー文化に危機感を感じて
プラスチックや紙コップで紅茶を飲むことを嫌ったことは有名な話。
それはマナーではなく、陶芸に携わる人々、そして陶器産業を守るための彼女なりの
姿勢だったのです。
陶器に「エレガンス」を追求し続けたスージーにとって、テイーセットは無くてはならないもの。
みなさまも、堅苦しいことはお考えにならずにアンテイークであれ現代ものであれ、
まずはお気に入りのカップ&ソーサーを見つけてみてはいかがでしょうか。
そこでスージーとの出会いがあれば、私にとってはこの上ない喜びです。
