リーダーズスタイル

フリーランス・ライター/英国アンティーク研究家 小関由美さん コラム

小関由美 Yumi Koseki
フリーランス・ライター/英国アンティーク研究家
1963年、東京生まれ。東京女学館短期大学中退後、美学校考現学研究室にて
赤瀬川原平先生に師事。
出版社勤務を経て1989年渡英以来、文筆業とアンティーク・ホールセラー(中卸業)
「Bebe's Antiques」のため、イギリスと日本を行き来している。
『英国コッツウォルズをぶらりと歩く』(小学館)、『英国アフタヌーンティー&お菓子』
(講談社)など、英国文化に関する多くの著作を執筆。
NHK文化センターにて講師も勤める。
ホームページ:bebesantiques.com

第2回目「本を作る際の、裏話的なことなど」

昨年の秋に新刊『英国アフタヌーンティー&お菓子』(講談社)という本を出版したのですが、この本の内容が決まったのが3月11日のこと。
決まってからはあっというまに内容、撮影、取材と進み、濃密な本作りの時間をすごしました。
「本を出したいんですけれど、どうしたらよいですか?」と、よく聞かれることがあるんですが、私の場合は、しりあいの編集者がいる出版社に企画を持ち込み、打診して、OKが出たら進行&出版という具合になっています。
持ち込んだまま放置されることもあるので、適当におうかがいをたてつつ、その間に他の企画を進めたりしています。
企画がとおるのに2〜3年かかることもよくあります。

さてOKがでたら、あっというまに制作です。
人というのは不思議ですね〜。やりたいと思っていながらも実際にGOサインが出てからあわてて詳細を考えます。
ブックデザイナーを決め、撮影がある場合はカメラマンを決め、イラストが必要だったらイラストレーターを決めます。
今回の本の撮影は共著者、英国菓子研究家の小澤祐子さんがやっていらっしゃる「ブリティッシュケーキハウス」にて。
自然光でなるべく撮影したかったので、お店をそのままスタジオがわりにさせていただきました。
彼女と本のお仕事をご一緒するのは初めてだったのですが、驚くほど意見が一致して、びっくりするやら、うれしいやら。
たとえば、お菓子を載せて撮影するお皿のチョイス。
彼女の手持ちと、私のアンティークの食器、エインズレイの食器をお借りしたものと、いろいろ取りそろえたんですが、40種類ものお菓子がさまざまなお皿を使って撮影され、それがまたお菓子とお皿、そして風景がぴったりとマッチしていたのが、うれしかったですね。
うまくいえないけれど、なにかがおかしい、と悩み始めると撮影がストップして、いい流れが止まってしまいます。
カメラマンや私たちの集中力はとぎれ、お菓子は時がたつと、おいしそうにみえないものもでてきます。今回はそれがまったくなく、どのカットをとってもすばらしく、おいしく写りました。


『英国アフタヌーンティー&お菓子』でご紹介した英国のお菓子たち。
左は、1960年代のステンレス・トレイに乗せた、バナナブレッド。
右は、バッテンバーグケーキの色調にあわせて、ヴィンテージの花柄テーブルクロスを。


エインズレイの食器を使って、英国菓子を撮影。
左は、イングリッシュバイオレット&ココナッツケーキ。
右は、エリザベスローズ&マディラケーキ。

その後は原稿です。
これがまたたいへんなのですが、約1か月ほどかかって書き上げ、校正という文字や文章の訂正などを数回おこなって、印刷&製本となります。
ふつう、著者はここでおしまいなのですが、私はアンティーク販売などと同じように、自分の本を商品のひとつと考え、イベントを自ら開いたり、ときには主催者にひらいてもらったりして販売しています。

出版業界も今は多様化の時代なので、さまざまな本が本屋さんに並びきらないほど出版され、欲しい本が埋もれてしまって、探すことができない場合もよくあります。
私の企画する本はイギリスに特化したニッチーなものが多いので、こうしたイベントなどでご紹介し、私の本に知っていただく機会を作っています。
また、読者の方に直接お会いして、率直なご意見やご感想をいただくのも、今後の参考とはげみになります。
そうしてひとつの本が完成し、イベントなどをひととおりやり終えると、次の本へとまた動きだして、ということで20年が過ぎました。
本を作る仕事が大好きなので、飽きることがありません。うれしいことに今回の本はご好評をいただき、初版が発売約1か月で完売となり、重版となったので、早くも次の本のお話をいただいているところです。

新刊はエインズレイ・ジャパンさんでも販売していただいているので、ご興味のある方はぜひごらんくださいね。レシピ以外にも、イギリスのティーハウスやアフタヌーンティーのご紹介もしています。


◇「英国アフタヌーンティー&お菓子」小関由美(著)・小澤祐子(お菓子制作)
aynsley-onlineshop.net/shopbrand/020/O/

第1回目「現在のものが将来はアンティークに。
英国アンティーク&コレクターズ・アイテムの世界『コロネーション』」

こんにちは! 小関由美と申します。今回からこちらにて、コラムを書かせていただくことになりました。
まずは自己紹介ですが、最初は編集者だったのがいつのまにかフリーランス・ライターとなり、それもやめてイギリスへ行き、帰ってきてアンティーク・ディーラーを始めました。現在はそれらすべての仕事をやりつつ、日本とイギリスを行ったり来たりしています。

アンティークは、もともとイギリスに住んでいた時に、友人がアンティーク・ディーラーをしており、手ほどきを受けてアンティーク好きとなりました。
帰国後ぶらぶらしていたら、英国アンティークの本を出さないかと言われ、再びイギリスへ。
資料を買いあさったり、取材をしていく中でアンティークの知識が深まり、それとともにコレクションも多くなっていったところ、それを譲ってほしいと言われたのがきっかけで、今度はディーラーとなりました。

今までいろいろなアンティークを買い集めてきたので、中には自分のブームが終わってしまったシリーズなどもあるのですが、今だに飽きないのが「コロネーション」。
コメモラティブ、メモラヴィアなどとも呼ばれ、いわゆる英国王室の戴冠式のときなどに作られた、記念グッズです。
どちらかといえば、マニア向けのアンティーク・アイテム。素材としてはガラスや陶器の器など。飾っておくものが一般的ですが、最近では小物入れやTシャツなど、使用目的のアイテムも増えてきました。
私がコレクションしているものでいちばん古いのが、ヴィクトリア女王の1887年のゴールデン・ジュビリーのときのガラス製飾り皿です。
これは売り物だったのですが、私の不手際で一部を欠けさせてしまったので、今では家に飾ってあります。


コロネーションいろいろ。右奥のガラスプレートが、欠けさせてしまったヴィクトリア女王のもの。

私のアンティークの師匠曰く「ディーラーはコレクションしてはいけない。
いちばんいいものはお客様のために売ること」という教えがありまして、ディーラー業を始めてから、私のコレクションはほとんど売ってしまいました。
しかしこうしたものや売れ残ったものなどは、大切にとってあります。
売れ残りであっても、いずれも気に入って買い付けてきた逸品ばかりです。
それにふと思い出して、店に久しぶりに並べてみると「ずっとこういうの探してたんです!」と、感激しながらお買い求めくださるお客様がいらしたりして、アンティーク業って、不思議でおもしろい商売だな〜とこうしたときに思います。


エリザベス2世が戴冠したときのもの。ガラス製のホットポット。

コロネーションはアンティークだけではなく、現在も作られています。
最新版は2011年のウイリアム王子とケイト・ミドルトンさん(現在はキャサリン妃)のロイヤル・ウエディング。
私も買いました。エインズレイの磁器のベルです。
これは持ち手の部分がゴールドのクラウンになっているのと、ベルの裏側に家系図が入っているデザインが珍しく、気に入っています。


エインズレイ社の昨年のコロネーション。裏に家系図が。


友人のアンティーク・コレクションとエインズレイ社のコロネーション。

ロンドンではエマ・ブリッジウォーターの飾り皿も手に入れました。
これは1940年代にコロネーションをデザインしたウエッジウッドのデザイナーにテイストが似ていたのが、気になって購入しました。
公式にこうしたロイヤルのコロネーションを作る許可をいただくには、厳しい審査があります。
許可を得られたブランドというのは、イギリスでも一級品のブランドである証。
来年はエリザベス女王のダイヤモンドジュビリー(在位60周年)です!このまま行くとヴィクトリア女王の在位より長くなりそうなので、彼女のコロネーションがいちばんたくさん作られることでしょう。
そうして現在作られたものが、100年後にはアンティークとして、どれくらいが残っていることでしょうか?
私が買ったものたちも、将来のアンティークとして残ることができるよう、今から大切にしているところです。

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