Cha Tea 紅茶教室 代表 立川 碧さん
第3回 「アンティーク画の中のティータイム」
こんにちは。Cha Tea 紅茶教室代表の立川です。
「アンティーク画の中のティータイム」、３回目の今回は日本では
余り考えられない少し変わり種のティーシーンをご紹介したいと思います。
19世紀に入り、英国のティータイムのスタイルは大きく変化します。
国産の陶磁器窯の発展、そしてインドやスリランカなど、
植民地での茶栽培が開始されたことにより、ティーカップ、そして紅茶そのものの価格が下がり、
「非日常」だったティータイムがもっと日常になっていくのです。
それまではお茶の時間というと、人をお招きする時、または家族の特別な時間が主でしたが、
このような時代の流れにより、いつでもどこでも気軽に紅茶が楽しめる環境が整っていくのです。
それでは早速紹介していきましょう。
1枚目はなんと、「海水浴中のティータイム」。
英国では19世紀前半、保養のスタイルが大きく変化しました。
18世紀まで王侯貴族の保養地は温泉が出るバースが中心でした。
しかし、18世紀末、ある学者が「海水浴が健康のために良い」という論文を発表しました。
それまでの学説では、潮風にあたると身体を壊す・・・とされていたため、
多くの人々は新しい学説に不信感を抱いていました。
しかし、当時の皇太子（後のジョージ4世）は温泉地を愛していた両親と仲が悪く、
両親とは異なる海辺での保養を好んだため、人々の関心は少しずつ港町に移っていきます。
特に、皇太子が別荘となる宮殿ロイヤルパビリオンを建てた
「ブライトン」は多くの保養客で賑わいました。
このブームは後のヴィクトリア女王の時代まで長く続きました。
海水浴を楽しみながらのティータイム。
それも浜辺ではなく、海の上で。
「えー、嘘でしょ」という声が聞こえてきそうですが、
このようなシーンを描いたアンティーク画は多数残されているんですよ。
しかし、すごいですよね。
きちんとしたトレイに、マグカップではなくティーカップ。
お砂糖壺や、ミルクピッチャーもしっかり描かれています。
お湯はどこで沸かしていたのかなど気になることがたくさんです。
(1)
2枚目も海でのティータイムです。
しかしこちらは同じ海でも大海原でのティータイムになります。
どうやら船は嵐に遭っているようですよ。
海水浴中でも紅茶を楽しんでしまうくらい紅茶に夢中の英国人。
もちろん船の上でもお茶の時間は楽しみの1つとされていました。
アフタヌーンティーの時間には優雅にお菓子を頂きながら
ゆったりとしたティータイムを楽しんでいたようです。
大きな船の場合は、備え付けのティーカップがありましたが、
小さなボートなどの場合は、乗る者が自宅から携帯用の茶器を持参することも多かったそうです。
鉄道での旅なども流行し始めたこの時代、
携帯用の茶器を持つことはステイタスの１つでもあったようですよ。
しかしこんな大嵐に遭ってしまったら・・・
大切な茶器を守るために必死になってしまいそうですよね。
画の中の女性もティートレイを守っていますね。
(2)
3枚目の絵は何とスケートリンク上でのティータイム。
スケートをしながらお茶を飲むなんて・・・想像を越しています。
氷の上に設置されたティーテーブルの上には立派なティーセットが。
寒い外です、紅茶を注いだ際の湯気もくっきりと見えますよね。
女性達の衣装もとても素敵です。
(3)
4枚目も氷の上でのティータイム。
そりに乗っている女性もしっかりティーカップを持っています。
男性達がティーポット、そしてお茶菓子を持って
彼女のそりの周りを滑っているのも面白いところです。
(4)
英国では今でも冬のスケートは子供から大人まで国民全体の楽しみ。
宮殿、博物館、公園など様々な場所に、臨時のスケートリンクが設置されます。
そしてリンクの周りには、必ずお茶が出来る喫茶店が併設されます。
しかしさすがにスケートを滑りながらお茶を飲んでいる人を見たことはまだありません。
皆さまはあるでしょうか？
英国ではヴィクトリア朝時代、ピクニックティーを代表とした野外でのティータイムは
「日常の生活美の延長」と考えられていました。
野外で使用する食器に対して手を抜くことは、
家庭の中でのティータイムも同じレベルで考えられてしまうと思われていたのです。
そのため、野外でのティータイムは室内と同様に気を遣うことが美徳とされました。
エインズレイ社は1861年、ジョン･エインズレイ�鏡い了�代に工場を新設した後、
ボーンチャイナの素地を使用したティーセット作りに着手しました。
それまでの陶器製造からの転向により、
この時代多くの中産階級者がエインズレイ社のティーセットでアフタヌーンティーを楽しんでいました。
もしかしたら、これらのアンティーク画の中にも
野外で楽しむエインズレイ社のティーセットが描かれているかも知れません。
現在エインズレイ社のティーセットをお使いの皆さまは
「大切なティーカップを外に持ち出すなんて割れてしまうのが心配」という方が大半だと思いますが、
ご自宅の中では「日々の生活美」としてお気に入りのティーカップを愛用してあげて下さいね。
◇ アンティーク画 参考文献
(1)
1881年「THE GRAPHIC」誌より タイトル「AN AQUATIC TEA PARTY AT BRIGHTON」
(2)
1893年 「The Illustrated London News」誌より タイトル「Afternoontea Under Difficulties」
(3)
1893年 「The Illustrated London News」誌より タイトル「Tea On The Ice」
(4)
1876年「HARPER'S WEEKLY」誌より タイトル「ICE ON OUR KETTLE-DRUM」
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