送料無料

英国食文化研究家/BRITISH CAKE HOUSE オーナー 小澤桂一さん
第5回 「イギリスのティータイム」

イギリス人はお茶を楽しむ機会が多い。
お茶とは、紅茶に限らずコーヒーなどでもお茶時間。
これは「ティーブレイク」と呼ばれる、大切な生活の中でのひととき。
仕事でも、家事でも、遊びでも、この時間に生活の句読点を入れるのだ。

現代の私達日本人は、毎日が忙しすぎて、朝動き始めてからお昼まで、一気に活動し、
そこでやっと休憩という人も多いだろう。
一方で、長〜い小休止の人には耳が痛い話かもしれないが。

この時間の扱いというか過ごし方というか風潮もあり、なかなか休めないのが現状だろうか。
しかしこんな考え方もある。
例えば自動車でかなりの距離、例えば500km離れた所までドライブしなければならない場面。
一人は先を急ぎ、途中の250kmで一度だけ休憩し、もう一人は100kmずつ
途中4度も休憩をとるという例え。
当然、途中1度の休憩の人は、それなりに早く行き先まで辿り着ける。
だから圧倒的にこの考え方は早く目的を達成するので勝ち、となる。

しかし、なのだ。
人生の目標、仕事や生活もけして瞬間だけでは、ない。
長く続く道を、限りなく繰り返して、様々な目標をたどってゆく。

要するに、長い道を歩むには、目先の達成感だけでなく、遠くを見つめ、その後の無理を
した反動なども考慮して、結局は「ウサギとカメ」の話のように、歩むべきであるという
人生の考え方だ。
インスタントとバブルに慣れてしまった私達日本人のそんな風潮は、
つまり正しいだけではないという教訓だ。

面白い経験がある。
イギリスの保存鉄道に乗車した時の話だが、この運営をしているのは皆ボランティア。
だから稼ぐための仕事ではないので、一概には言えないが、
車掌が乗客一人一人のきっぷ(乗車券)の確認を一通り終えた車内のこと。
マグカップ片手にたっぷりのミルクティーを淹れて、にこやかに車掌室に戻って行った。

まるで、この一杯の紅茶というご褒美をもらうために働いていたようだった。
駅に到着して、様々なボランティアの鉄道員たちを見まわしたら、運転手も機関士も、売り子も駅員も、
なんとマグカップ片手に楽しそうに仕事の句読点を過ごしていた。

日本では自動販売機というとても便利なものがある。
ペットボトルという優れた容器もある。

しかし、マイカップを片手に昔ながらのティーブレイクをするのは、
実は自身の健康管理をするように、自分自身に与えた「仕事」として休みを受け入れ、
また人生を管理して、長い道のりをより豊かに生きるための知恵であるように感じる。

たかがティーブレイクの一杯のお茶が積み重なった時、
実は遠く高い人生の目標を乗り越えてゆける力が備わって行くのかも知れない。

pagetop