送料無料

Mornington Crescentオーナー ステイシー・ワードさん
第2回 「英国の食文化は家庭から、だから素朴、だから魅力的!」

お菓子教室をしていて気づいたことですが、
イギリスの焼き菓子はあまりファンシーではありません。

例えば、イギリス人にとっては、女王様の名前まで付いているほど代表的で自慢の焼き菓子
ヴィクトリア・スポンジ・ケーキですが、イギリスに詳しくない方からの目から見たら
「あれ?この地味なケーキはまだ仕上げが終わってないのかな?」
「これからクリームやデコレーションするのかな?」
と思ってしまうのではないでしょうか。

シンプルな材料の美味しさをそのまま楽しめる、英国の焼き菓子は
見た目より、愛している人の身体と心を喜ばせることを大事にしています。
家族や友人みんなで気軽にアットホームな暖かい時間を過ごすこと、
ブラムリーアップルなどの季節のフルーツなど材料の季節感、
シンプルで余分な添加物を使わないことを大切にしています。

イギリスの食文化は家庭から出来たとも考えられ、
実は女性が書いた重要な料理本が昔から数多くあります。

◆ Elinor Fettiplace (1604年、Complete Receipt Books of Lady Elinor Fettiplace)
◆ Hannah Glasse (1747年、The Art of Cooking Made Plain and Easy)
◆ Eliza Acton (1845年、Modern Cookery for Private Families)
◆ Isabella Beeton (1861年、Book of Household Management ビートン夫人)
◆ Jane Griggson (1974年、English Food)
◆ Elizabeth David (1977年、English Bread and Yeast Cookery)

その中から昔のスポンジケーキ レシピを2つ紹介します。
現在は作る大きさと作業の時間などはずいぶん違いますが、材料のシンプルさはそのまま
今もイギリスの焼き菓子文化に残っています。

【To Make a Butter Cake (Hannah Glasse 1747)】
Take a dish of butter, and beat it like cream with your hands,
two pounds of fine sugar well beat, three pounds of flour well dried, mix them in with the butter,
twenty four eggs, leave out half the whites then beat all together an hour.

【バターケーキの作り方】
バターを1皿分、クリーム状になるよう手で良く混ぜる。
細かい砂糖と、乾燥させた小麦粉3ポンドをバターに混ぜる。
卵24個のうち、12個分の卵黄のみと、全卵12個をバターのミックスに合わせ、1時間ぐらいよく混ぜる。

【A Good Sponge Cake (Eliza Acton 1845)】
Rasp on some lumps of well-refined sugar the rind of a fine sound lemon,
and scrape off the part which has imbibed the essence,
… and add them to as much more as will make up the weight
of eight or ten fresh eggs in the shell; break these one by one
and separate the whites from the yolks; beat the latter in a large bowl for ten minutes,
then strew in the sugar gradually, and beat them well together.
In the meantime let the whites be whisked to a quite solid froth, and add them to the yolks,
and when they are well blended sift and stir the flour (half the weight of eggs) gently to them.

【良いスポンジケーキ】
レモンの皮の部分を、砂糖の固まりをおろすように潰してから、
レモンエキスが入っているところを落として使います。
卵8〜10個と同量の重さのお砂糖を計る 。
その卵を卵黄と卵白を分け、卵黄を10分間しっかり混ぜてから、
すこしずつお砂糖を加えてよく混ぜます。
卵白もしっかり泡立ててから卵黄の中に加えて、混ぜ合わせてから小麦粉も加えて優しく混ぜます。

ベーキングパウダーがない18世紀と、
お砂糖を固まった状態で買う19世紀は作業がもっと大変でしたね!
「混ぜる」「加える」などのとてもシンプルな方法が多く、
卵24個や10個の大きなケーキも、大家族でシェアすることが目的だったのでしょう。

フランスの宮廷の食文化や、エスコフィエ氏が考えた軍隊のように上下が厳しい
「brigade de cuisine」のレストラン キッチン体制とは別世界ですね。

イギリスの食文化は、誰かに良い印象を与えるというよりも、
家族や親戚を大切にし、家族のために何かをしたり、
一緒に美味しいものを気軽に、そして楽しくシェアすることが中心にあると思います。
まるで母親が考えたスタイルで、優しくて素朴です。
とても魅力的だと個人的に思います。

私の教室Mornington Crescentも、このように余計な物を使用せず、
作りやすい、ご家族に喜んでもらえる美味しい伝統的な家庭焼き菓子を中心としています。

装飾的なものではありませんが、素朴でシンプルなものが多く、大変美味しいです。
そして何よりも、お菓子を通じて親しい人たちと人生をシェアするというのが特徴です。

pagetop