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Mornington Crescentオーナー ステイシー・ワードさん
第3回 「そもそも、プディングとは?」

クリスマスに食べるプディングは、わずか数百年の歴史のものですが、
プディング自体と、12月のお祝いには色々なバリエーションがあり、
数千年もの長い歴史があります!

日本語でプリンと言う言葉は英語のpuddingから来た言葉です。
でも日本語のプリンはアメリカのchocolate puddingやvanilla pudding等の使い方が
一番近いと思います。

イギリス英語でpuddingと言う言葉はとても幅広く、色々な種類のものを表しています。
まず、現在のイギリス英語でpuddingという単語は「デザート」と同じような意味で使われます。
例えば家族の中でよく使うフレーズである
“what’s for pudding today?” (今日の夕食後のデザートは何?)や、
レストランのメニューの中のpudding
メニューではstarters(前菜)、mains(メイン)の後に、pudding(デザート)が来ます。
つまり「pudding」という言葉はデザート全般を指して使います。

また、イギリスではpuddingという単語がお菓子でもお料理でも、
プリン型のものを指していることもあります。
例えば、日本でも人気のsummer puddingやsticky toffee pudding等のお菓子や、
steak and kidneyというプリンの形のお肉料理もあります。

そしてプディングの形にはなっていなくてもbread and butter puddingというお菓子や、
Yorkshire puddingというお料理もとても古い時代からあります。
プディングの形になっていないのにpuddingと言う言葉を使う場合は、
ケーキやパンと異なり、しっとりしていて、温かくして食べるもの、
もしくはゼリーのようにフルフルしているか、ちょっともっちりした食感の食べ物を指しています。
black puddingというソーセージ系のものや、 rice pudding やpease puddingの用に、
色々な材料を混ぜた少し濃いシチュー系のものを表すことも。
とても混乱しやすい言葉ですね!

現在のクリスマス・プディングはボウルの形ですが、
クリスマスとの関係が密接になる前、いつでも食べられたplum puddingや
他のパンの粉、牛脂、たまご、ドライフルーツとスパイスを使ったプディングは、袋で作られていました。
このbag pudding(袋入りプディング)は全体的に丸い球形のものでした。

袋で作る場合は、専用のpudding cloth(プディングを茹でるための特別な布)を沸騰し、
水を切って大きなボウルの上に広げます。
その湿った布に小麦粉を振るとペースト状態になるので、
茹でている間にプディングが漏れないように守ることができ、
またクリスマスまでの間に、クラストに味がしみ込み美味しくなります。

バッグ・プディングの一番古いレシピは、
1617年の Cambridge pudding (college pudding)で、
ケンブリッジ大学にて開発されたものと言われていますが、
実はプディングの布は、1596年に書かれた
Thomas DeloneyのJack of Newbryのお話に出て来るので、
遅くとも16世紀には開発されていたと考えられます。
スコットランドには現在もバッグ・プディングが残っています。
その1つにclootie dumplingがありますが、
clootie(クルーティ)はプディングを作るための布のことです。

これらのプディングはクリスマスのための食べ物ではなく、いつの時期でも食べるものでした。
実は1644年には、クリスマスのお祝いや、
その時期にたくさんのごちそうを食べることが禁止されました!
禁止前と1660年に禁止が解けた後のクリスマスの食べ物は、
plum pottage又はChristmas porridgeと言うお肉とパン粉、
砂糖とスパイスのお粥に似たポリッジ系のものでした。

昔のイギリス人のお金持ちは、
現在よりも甘いもの、塩気のあるもの、辛いもの、酸味のあるもの、スパイシーなものを
ワンボールに混ぜました 。
デザート系の物も最後ではなく、同時にテーブルに並べていました。
そして味つけは現在よりも強いものが好みでした。

英語のpuddingという言葉は、
もともとフランス語のboudin(ボダン)という、血のソーセージと同じように
ラテン語のbotellusから来た言葉だと言われています。
ソーセージというところがポイントです!
プディングのような食べ物はローマ時代には既にあったのですが、
それはスコットランドに現在もあるhaggis(ハギス)と同様、動物の胃を袋として使ったものでした。
動物を処理する時、一番早く腐ってしまうホルモンや血などに塩をかけ、
胃や腸に詰めるという肉の効率的な処理方法でした。
胃の場合はプディング、腸の場合はソーセージとなります。
あまり知られていませんが、英語のsausageの単語の由来は、
お塩をかけるというラテンの”salsus”から来た言葉です。

1420年のレシピ書『Liber cure cocorum』には
プディングという単語がpuddyngというスペルで使われています。
そのプディングは鶏の首にパン粉、腎臓、卵とハーブを詰めた料理でした。

16世紀では、肉にシナモン、
ジンジャーとクローブ(12世紀の十字軍によりイギリスに入った)と甘いレーズン等を、
合わせるのは、おかしいとは思われていませんでした。

バッグ・プディングは17世紀にとても人気がありました。
Sir Kenelm Digby Kgt (1669年)のミルク、ナツメグ、パン粉、卵、レーズンを使った
quaking bag pudding(フルフルのバッグ・プディング)のようなレシピがたくさんがあります。
1690年、フランス人作家Francois Maximillien Missonは、
イギリスのプディング文化と作り方の多様性ほめています。

“They bake them in an oven, they boil them with meat, they make them fifty several ways:
blessed be he that invented pudding for it is manna that hits the plates of all sorts of people;
a manna, better than that of the wilderness, because the people are never weary of it.
Ah, what an excellent thing is an English pudding!”

17世紀の大きな家のキッチンでは、大きな鍋(cauldrons)に、
肉、バッグ・プディング、jugged hare(野うさぎの煮込み、容器に入れて作る)など
色々な食べ物を同時に入れて茹でていました。
プディングは、布をかけて茹でるプディングから、
鍋の中で上部に泳ぐ木製のプディング・ボウルとなり、陶器のボウルとなりました。
ちなみに、現在イギリスでは、専用のプラスチック製のふた付きボウルが使い易いと人気ですね。

Charles Dickensの 「クリスマスキャロル(A Christmas Carol)」(1843年)に
ヴィクトリア時代のクリスマス・プディングの喜びがとてもよく表されています。

“Mrs. Cratchit entered - flushed, but smiling proudly - with the pudding,
like a speckled cannon-ball, so hard and firm, blazing in half of half-a-quarter of ignited brandy,
and bedight with Christmas holly stuck into the top.”

19世紀ヴィクトリア時代から中世の頃はTwelfth Nightのお祝いが最も大きかったのですが、
クリスマスの日の方が人気となり、ヴィクトリア女王&ドイツ人のご主人アルバート公の影響で、
もともとドイツのものだった、現在の英国クリスマスのシンボルである
クリスマスツリーとクリスマスカードの交換が始まりました。

現在のイギリスには珍しくなりましたが、
翌年の運勢を占う遊びのためクリスマス・プディングに小物を入れるという習慣は、
ローマ時代の12月のSaturnalia(収穫祭)の習慣から来たものです。
SaturnaliaではMock Kingという遊びの王様がくじで選ばれました。
Twelfth Night cakeにも、フランスのgallette de roisのようにフェーブ(豆)を入れ、
見つけた人がお祝いの王様(Lord of Misrule)となりました。
ケーキに入れるものは、豆の他に、銀のコイン(お金持ちになる)、ボタン(幸運)、
指ぬき(結婚しない)、指輪(結婚する)、ウィッシュボーン(make a wish)、木の枝(貧乏人になる)、
布の小片(アンラッキー)などなど、いろんなバリエーションと意味がありました。
残念ながらhealth and safetyの理由で、
イギリスで買えるプディングには今は入っていないものがほとんどですが、
もし持っているなら食べる直前入れてもいいですね。^ ^

今のイギリスのクリスマス・プディングは、
ローマ時代からの食べ物とお祝いの文化、16世紀からの味つけ、
そしてヴィクトリア時代に強くなったクリスマスのお祝いの習慣、
それぞれの時代とその歴史を混ぜ合わせ、少しずつ味わえる興味深いものですね。

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