英国紅茶研究家/ライター 斉藤由美さん
第2回 「英国のクリスマス」

冬のイギリスが好き」というと、意外と驚かれることが多い。確かに寒いし、日は短い。
もちろん、鮮やかな花が咲き乱れる季節のイギリスも大好きだし、
屋外の緑に包まれてアフタヌーンティーも楽しめる。

だけど、日が短い分、夜の時間をゆっくりと紅茶を飲みながらくつろぐひと時はこの上ない幸せを感じるし、
特にクリスマス前の雰囲気は格別だ。
ホテルのロビーには暖炉が赤々と燃え、大きなクリスマスツリーが飾られる。

通りには、イルミネーションがキラキラと輝き、日本よりも夜の訪れが早いことなど気にもならない。
マーケットには、クリスマスプディングやもみの木を売る店などが立ち、
日本では見られないシーンも興味深いものだ。
スーパーマーケットも楽しい。
クリスマスプディングやミンスパイが山積みになって売られていたり、
クリスマスの特別商品などのチラシを眺めているだけでもワクワクする。


◇クリスマスケーキを売る店

アフタヌーンティーも、ところによってはケーキセレクションもクリスマス仕様だったりする。
昨年、3年ぶりの修復工事を終えオープンしたばかりのサヴォイホテルに行ったときがそうだった。
クリスマスムードのトッピングがスマートに施されたケーキたちは、どれもこれも洗練されていて、
選ぶのにはずいぶんと時間がかかってしまった。
サイズが小さいので、食欲旺盛な方なら全種類制覇するのも容易なことだが、
そのときの私には無理なことがわかっていたので2種類が限界、今思うとちょっと悔やまれる。
ちなみに、これらのケーキはラウンジ前にある「SAVOY TEA」というショップで購入することができるのも嬉しい。


◇クリスマスツリー(サヴォイホテル)

マーケットで面白かったのは、クリスマスツリーにするもみの木を売るお店。
あちこちにたくさんある。小さいものから大きなものまで好みのサイズを買い求めることができる。
それを見ながら、「どうやって持って帰るんだろう・・・?」という疑問が浮かんだが、
もみの木売り場の横に何やら不思議なネットをつけた機械を発見。
白いネットがかぶせられた銀色の筒にもみの木を差し込むと、
もみの木がネットに覆われてコンパクトになるという仕掛け。
それを肩にかついで持ち帰るおじさんの嬉しそうな顔を見て、思わず微笑んでしまう。


◇マーケットで売られているもみの木

サンタクロースの赤い帽子をかぶって温かい料理を作る屋台、かわいらしいクリスマスケーキが並ぶ屋台、
大きなクリスマスリースを売るお店・・・
風は冷たいのに、心はほんわかとしてくる楽しいマーケットは、クリスマス前のイギリス旅行には必見の場所だ。

家庭では、12月に入るとクリスマスツリーなどの飾りつけが始まる。
クリスマスツリーは、ヴィクトリア時代に始まった習慣。
ヴィクトリア女王の夫君アルバート公が故郷のドイツの習慣を取り入れ、
1841年にウィンザー城に飾ったことがイギリスでのクリスマスツリーの誕生といわれている。

ロンドンのホテルやデパートに飾られているクリスマスツリーの美しさは本当に感動的だが、
ロンドンに行ったらぜひ見たいクリスマスツリーがある。
ナショナルギャラリー前のトラファルガー広場に、12月初旬になると飾られるツリーがそれだ。
このツリーは、第2次世界大戦のときにイギリス軍がノルウェー軍を助けたお礼に、
毎年オスロ市から贈られてくるものだ。
取り立ててきらびやかなものでもなく、
夜になっても静かな灯りがポツポツと点っている、意外とシンプルなものである。
でも、長年にわたり続いている「感謝の印」に灯りが点ると、
きっとそれがロンドン市民にとってのクリスマスシーズンの始まりなのだろうと感じる。
寒い寒いロンドンで、クリスマスツリーに秘められたやさしいストーリーを思い出し、心がポカポカと暖かくなる。

街がクリスマスデコレーションで華やぎ、家族への贈り物も揃ったら、
イギリスのクリスマスは家族で過ごす大切な時間。
家庭でのクリスマスのお祝いは、イブではなく25日のクリスマスディナーがメイン。
イブは、教会のミサに出かける人もいるが、
25日の朝にミサに出かけてその後ゆっくり家族でクリスマスの食事をいただく過ごし方が最近は多いらしい。
そして、もちろん家族揃って温かい紅茶を飲みながら、静かに穏やかにクリスマスのひと時を過ごす。
翌日のボクシングデー(※)に胸をワクワクさせながら・・・。

皆様は、どのように今年のクリスマスをお過ごしになる予定でしょうか?
お気に入りのティーカップと熱い紅茶と共に、ステキなクリスマスをお過ごしください。

※ボクシングデー
イギリスでは、クリスマスの翌日12月26日は「ボクシングデー」と呼ばれ、
贈り物をする日」として休日となっている。
昔はこの日に、各家庭で郵便配達人や使用人に祝儀としてクリスマスの贈り物をしたという説、
また当時急成長を遂げていたイギリス経済社会の波で貧富の差が激しくなり、
貧しい人々を救おうという社会福祉運動が教会の働きによって
恵まれない人々に箱に入れた贈り物をすることから始まったという説がある。
クリスマスの贈り物が一般に広がったのも、ヴィクトリア時代といわれている。

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