英国紅茶研究家/ライター 斉藤由美さん
第4回 「エインズレイをめぐる思い出の瞬き」

今年で20回目を迎えた東京ドーム「テーブルウェアフェスティバル」。
エインズレイファンならきっとお出かけになった方も多いと思う。
憧れのテーブルウエアは、プロのセッティングでひときわその美しさを放っている。
いつも自宅で愛用しているティーカップも、この場で見ると新しい顔を覗かせてくれる。

記憶にとどめられないほどの多彩な食器たちを目にした中で、ひときわ輝いて見えたものが、
エインズレイの「幸せを運ぶバタフライ」。
1931年、メアリー王妃のご用命により作られたとのこと。
デザイナーの豊かな想像力とエインズレイなわではの優れた技術の賜物にとくと酔いしれるひととき。
今から80年も前のイギリスで、どんな気持ちで、どんな思いでこの素晴らしい作品を生み出したのだろうかと
感動と共に思いをめぐらしていたら、ふと、私とエインズレイとの出会いのときを思い出した。


◇テーブルウェアフェスティバルで展示されていたバタフライのテーブルセッティング。

今からもう15年以上前になるが、当時私は勤務していた紅茶会社が主催する紅茶教室で副支配人を務めていた。
ある日、日本のエインズレイ輸入販売代理店の方が、
英国エインズレイ本社の方とご一緒に紅茶教室の見学に来てくださった。
英国エインズレイ本社の方こそ、エインズレイ7代目のマイケル・エインズレイ氏である。

マイケルさんは、日本の女性たちがこれほどまでに熱心に英国の紅茶文化を学ぶ姿に感銘を受けたらしく、
「ぜひ、このような素晴らしいお客様とご一緒に、英国エインズレイ社にお越しください」と熱く語ってくれた。


◇エインズレイ7代目のマイケル・エインズレイ氏

そして、その約束は1年後に実現した。

「英国紅茶ツアー」を企画し、20名近いお客様とともに、エインズレイ社を訪問。
心からのあたたかい歓迎は、エインズレイ社の皆さんの笑顔を見るだけですぐに感じ取れる。
イギリス国内で発行しているというエインズレイファンへ向けての会員誌にぜひ掲載したいということで、
プロのカメラマンまで動員してくださっている。
このカメラマンがまた実に笑顔を引き出すのが上手で、カメラを向けられた私たちは、たちまち笑顔が膨らむ。

スペシャル体験として、陶花への色付けも体験。
生まれて初めての体験は、本当に難しくてなかなか思うように色がのらない。
商品化されているものがあれほど美しい鮮やかな花を咲かせている裏側には、
いかに優れた技術があってこそなのだということを、素人である自分の初体験を通じて思い知る。

ショールームでの楽しいティーパーティーは、エインズレイのステキなティーカップで。
憧れの食器でいただくミルクティーのおいしかったこと。
エインズレイのティーカップを手にするたびに、あのときご一緒したお客様一人ひとりの笑顔と、
あたたかく迎えてくださったエインズレイ社の皆様のやさしさを思い出す。

その後、プライベートでも何度か英国エインズレイ社を訪問させていただいた。
マイケルさんご夫妻がディナーにお招きくださり、ご案内いただいた場所が「The Potters Club」。
会員制のこのクラブのラウンジで、メニューを見ながら、食前酒片手に時間をたっぷりかけて料理をチョイス。
広々としたダイニングルームは、英国ならではの伝統と風格が漂っている。
食後は部屋を移動し、暖炉の赤々と燃える場所で食後の飲み物をいただいた。
その穏やかに流れる時間の中で、
陶磁器文化がこの地に深く浸透し国の一大産業として時代を重ねてきたのだと感じた。

マイケルさんのご自宅にもお招きいただいた。
マイケルさんが一番好きだとおっしゃるエインズレイシリーズの中の「コテージガーデン」の器、
時計、花瓶などが、家のあちこちをとても華やかで明るい空間にしている。
お客様を招いてパーティーをすることが多いとのことで、美しいクリスタルがまるでレストランのように飾られている。
ここに招かれるすべての人たちが、私と同じようにあたたかく満たされた気分に違いない。
マイケルさんは、人の心をあたたかく包んでくれるやさしさと魅力にあふれた方。
とてもチャーミングな奥様は、緊張気味の私との間にさまざまな共通の話題を見つけてはやさしく語りかけてくださる。
寒い寒い真冬の昼下がりだったが、寒かったことなどまったく思い出せない。
「ホスピタリティ」という言葉は、日本でもよく使われるようになったが、
もしかしたら私の人生の中で感じた最高級のホスピタリティは、
マイケルさん、そして英国エインズレイ社の皆様との時間だったように感じている。


◇コテージガーデンシリーズの陶花

なかなか経験できない貴重な時間を通じて感じたのは、
一流のブランドとはこういうあたたかく大きな心を持った人たちの
熱い思いの丁寧な積み重ねで発展してきたのだということだ。
イギリス人の誰もが憧れ、大好きだと語るエインズレイ。
イギリスの美しい自然をモチーフとした愛らしいデザインの数々は、まさに幸せを運んでくれる。
1931年にメアリー王妃のために作ったという、
色とりどりのバタフライがハンドルにあしらわれたティーカップに見とれながら、
歴史あるエインズレイブランドに魅了された私の中の煌く思い出たちが、
色鮮やかな蝶のように幸せに舞い飛ぶのを感じた。


◇バタフライのティーカップ

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