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英国食文化研究家/BRITISH CAKE HOUSE オーナー 小澤桂一さん
第2回 「イギリスの器に見るライフスタイル」

栄華を極めたイギリス、優雅なイギリス、高貴なイギリス…。

多くの人達がそれぞれに抱くイギリスのゴージャスなライフスタイルのイメージ。

私はイギリスを放浪しているうちに、沢山の発見があった。
その一つに英国人の好んできたライフスタイルという、イメージと異なる衝撃があった。

ふつう、イメージする高貴な生活風景は、煌びやかな贅を尽くした空間に身を置き、
最高のものだけを集め、「キンキン・ピカピカ」に囲まれた、ヴェルサイユ宮殿や、
少女マンガに出てきそうな風景を想像するものだろう。

ところが、多くのイギリス人が求める、豊かなライフスタイルの風景はそうでなかった。

観は古く、日本人には「ぼろい」と言われそうな石作りの屋敷で、色は単色。
石の塀で囲まれていて、芝生と一見手入れがされてるか分からない様な素朴なガーデン。
お屋敷の規模により異なるが、おおよそ豪華な噴水がある程度…。
しかし、これがとてつもなく美しく、また存在感と、何故か、どうしてか豊かなのである。

室内に入るともちろん様々だけれど、イメージと少し異なる。
金銀に溢れたゴージャスではなくて、とても地味。
たまにイメージ通りのゴージャスな部屋があると、よく「フレンチルーム」と言われていたり。
確かにバッキンガム宮殿など一部では、このラインでの豪華さに出会うが、
こちらの方が一般的なものではなさそうだ。

その後、多くの家や屋敷、そしてまさにお城の様な貴族の館にお邪魔する機会があったが、
出てくる主も夫人も、至って普通の地味なイギリス人の服装やお化粧、雰囲気で、
何だか現代ではお姫様やお殿様と、普通の人達との差は残念ながらないようだ…。
とある屋敷では庭のキーパーをしていた人が主人だったり、
コンパクトカーでにこにこ手を振って現れたのが、夫人本人だったり、
どこに居るか油断も隙もあったものでなない。

ところが、なのである。
私は経験や理解をするにつれ、どんどんと根底にある、
イギリスの奥深さや素晴らしさ凄さを、思い知ることとなる。
屋敷の大きさや生活など諸々の差はあれど、そこに身を置いたとき絶対的な思いになることがある。
それは、「落ち着き」と、「包み込む優しさ」そして「デンとした動かない力」、
つまりどの場面にでも、圧倒的なゆるぎない安心感の中で、どっしりと心が落ち着き、
とても「心地よい」と感じるのだ。
それは古くて床が傾いていても、である。

そしてその風景の中に、必ず溶け込むものがある。
それは絵画や家具であったりもするが、必ずと言っていいほど、
陶器の皿やティーカップなどがインテリアとして配されているのだ。

壁に掛けられていたり、石の厚い壁を利用した窓の枠の部分に置いていたり、
そしてイギリスではカップボードの様な家具に、陶器が印象深く飾られている。
イギリスの静かな時間の記憶を呼び起こす時、
私はこのよく出会う陶器の飾られたインテリアの印象がよく出てくるし、
それだけ出会う機会も多いという訳だ。

しかしここに実にイギリスらしい、優雅なライフスタイルのヒントが隠されている。

それはライフスタイルの舞台である屋敷の、外観も室内もそうであるのだが、
生活の中の生きたものを自然に取り入れるという感覚が共通して存在しているのだ。

まりガラスケースや標本にしない、そのままの姿を取り入れるという美学なのだ。

美しいものに触れていたい、そしてその本来の姿と共存するところに、
おそらく落ち着きや安らぎという感覚で、人の心に届くのだろう。

歴史上の人物や装飾用の美術品を眺めるのもいいが、すぐ隣に居る生きた家族や仲間、
そして生活の中でささやかな潤いを与えてくれるティーカップや器を愛でるのもとても美しいと思う。
そしてその生活の中で支えてくれる物たちに愛着を感じられる時に、
本当の自分のライフスタイルが見えてくるのだとも思う。

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