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英国食文化研究家/BRITISH CAKE HOUSE オーナー 小澤桂一さん
第3回 「イギリスの食は美しい」

「イギリスには美味しいものがたくさんある」
と書いたなら、どれだけの人がそれを知っているのだろうか。
逆に、「そんなはずはない」或いは、「そうであってほしくない」
と書いた方が、多くの人が賛同するのかもしれない。

「イギリスが美味しくない」と世の中の多くが語っているが
実際に英国に住んだり、行ったりした人に聞くと、
「そんなことはなくて、美味しい」と実はよく聞くことがある。
しかしそう答える人はほとんど、日本においてもガイドブックや評価サイトでなく、
自分自身で美味しいものや店を探せたり、ライフスタイルにも気を遣っている人であるのだ。

人の評価基準でなく、自分自身で公平に評価できること。
さらに、実際にそれが遠い異国の現地を訪れて、表面的でない部分にまで好奇心で
体験を実践できる人なんて、ほんの僅かしかいないのが現実だ。

だから「イギリスは美味しい」と実体験できる人が少ないのは当然なのだと思う。

こう書くと美味しいのは、ロンドンの高級レストランのことだろう。とか、
日本ならどこでも美味しいものがある。とか言われそうだが、
実はイギリスの見方を知れば、それは実にたやすく体験できることなのだ。

ひとつ重要な事実として、日本の一般的な社会の現状を見てみる。
確かに、いつでも食べ物に溢れ、様々な様式や国々の料理がたくさんあるように見え、食に困ることはない。
しかし、その実際とは、意識のある人を中心にオーガニックなど出まわり始めたが、
多くがコンビニエンスストアやスーパーの惣菜、チェーン店など食の中心は冷凍食品と化学調味料だらけで、
販売されているものに表記されている内容を見たら、それは研究の成果がどんと盛り込まれた、
とても人間が食して安全だろうけれど、良いものだとは思えない。

野菜や果物も農薬が大前提で、海に囲まれているこの国なのに、魚介類は世界中から輸入され、
自国の誇るべき保存食の漬物まで、工業生産品になってしまった。

庶民の食と言っても、台湾や中国、東南アジアの屋台のような、溢れる食環境でもない。

だとするならば、まずイギリスの食事がどうのと語る以前に、日本の食事情は、本当に美味しいのか、
単に口に慣れ親しんだものなのか、考え直す必要があるのではないか?

敢えてその点でイギリスを語るとするならば、イギリスには美味しい野菜や果物、肉類、魚介類など、
とても自然な滋味溢れる季節の味覚が、どこでも出会うことが出来る。
それを単に「イギリスは美味しい」と言えないかも知れないが、
「イギリスには美味しいものがたくさんある」とは言えるかも知れない。
それも食べて比べないと分からないと言うのであれば、これだけは言える。
地元で当たり前に採(捕)れる食材に出会える食事情は、
たとえ形が歪でも、カッコ悪くても、「イギリスの食は美しい」と。
大地や自然が育んだ恩恵に出会うと、不思議とそんな豊かな想いにさせられるのだ。

◇写真は、前回イギリスの田舎で家を借りた時に、近くのファームショップと港で買ってきた食材。  どれも生き生きと輝いていた。

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