英国紅茶研究家/ライター 斉藤由美さん
第5回 「データで見る、最近の英国紅茶事情」

2002年のサッカーW杯で来日したイングランドチーム。
日本でも人気No.1だったデイヴィッド・ベッカム選手が滞在先のホテルで、
よく紅茶を飲んでいたということを、宿泊先のホテルの方がテレビで話していた。
「ベッカム選手は甘党なのか、紅茶にシュガーをスプーンで3杯もいれて飲んでいました」
シュガーを3杯・・・すごい量だなあと思いながら、紅茶の味わい方も人それぞれであることを感じ、
テレビの前で一人微笑んだものだ。

イギリス人を対象にした紅茶の飲み方について、
興味深いデータを見つけたので、いくつかご紹介したいと思う。
まず、シュガーの件。「紅茶にシュガーをいれて飲む人は、全体のたった30%しかいない」いうデータ。
ここでおもしろいのは、「たった30%しかいない」という表現。
おそらく以前はもっとこの数値が高かったに違いない。
ベッカム選手は、この30%のうちに数えられるということになる。

「イギリスは紅茶の国」というイメージが強いことから、
お店や自宅でもリーフティーがサービスされることを期待してイギリスを訪れる方も多い。
日本から現地に赴き、ホテルに到着するのはほとんどの場合夕方。
だから、誰かがいれてくれた待ちに待った紅茶を味わうのは、おそらくほとんどの場合、翌朝の朝食時と思われる。
「Tea or Coffee?」と尋ねられ、心躍らせながら「Tea」と笑顔で答えたのもつかの間、
運ばれてきたティーポットのフタをあけると、そこには大き目のティーバッグが入っていて、
一気にテンションが下がってしまったという話を、これまで何度も聞いたことがある。


◇イギリスのホテルの部屋にある標準的なティーセット
ミルクティー用のミルクは、紅茶用のリキッドタイプのものが用意されている
(写真左にある白い容器)

しかし、これが「英国紅茶」の実情。
消費量全体のなんと96%がティーバッグだというから驚いてしまう。
日本の場合のこの割合は、ティーバッグが全体の約70%、
残りの30%の中にリーフティー、インスタントティー(パウダー)などが含まれており、
ここ数年はインスタントティーの伸びが著しい。

ティーバッグの消費量が大多数を占める中で、リーフティーはどんな場面で楽しまれているのか?

いつもはティーバッグで楽しんでも、休日家族でゆっくり過ごすときや友人を自宅に招いたときなどは、
リーフティーで楽しむという。
「英国紅茶のティーバッグ化」ばかりを嘆く声も多いが、
忙しい日々の中でとてもメリハリをもって紅茶を使い分けている例だと感じるし、
このような感覚は私たちの生活にも取り入れることができる。
私はこのスタイルに習い、休日の夜はゆっくり時間をかけて丁寧に紅茶をいれ、
好みのカップを選んでティータイムを楽しむ習慣を数か月前から始めた。
「今日はどんな紅茶にしよう?」「この紅茶には、どのティーカップが合うかな?」などと
思いを巡らしながら楽しむ紅茶の時間。
リーフティーならではの豊かな時間を感じられるのは、ティーバッグの時間の良さも知っているからなのだとも思う。
休日の夜のこの習慣、翌日から始まる一週間をキラキラな気持ちで迎えるための「おまじない」みたいなものになっている。

さて、データに話を戻すこととしよう。
ミルクたっぷりのミルクティーがイギリス人に好まれていることはよく知られているが、
データでみると、全体のなんと98%の人がミルクティーを飲んでいるという。
日本の場合は、数年前のデータだが、紅茶にミルクを加える飲み方は増えているものの、約40%。
やはりストレートで楽しむ人がまだまだ多いようだ。

一日当たりの紅茶の飲用杯数についてのアンケート結果がある(グラフ1)。
一日4杯以上も紅茶を飲むと答えた人が、なんと半数以上もいる。
ティーバッグの消費量が多いのも、一日に何度も紅茶を飲むから、
手軽に準備できるティーバッグが重宝だと話す人も多い。


◇グラフ1
調査時期:2009年3月
対象:1940人
データ:UK Tea Council

さて、冒頭にベッカム選手のことを書いたが、
宿泊先のホテルの方のコメントは紅茶以外のことについても、ひと言触れていた。

そういえば、ベッカム選手は『かっぱ巻き』をとても気に入られたご様子で、何度もおかわりをしていました」
かっぱ巻き・・・きゅうりのサクサクがフレッシュな、シンプルな細巻きずしだ。
イギリスのアフタヌーンティー、
伝統のティーサンドイッチ「キューカンバーサンド」(シンプルなきゅうりのフィンガーサンドイッチ)との共通点が
気に入った理由なのではとふと思い、またテレビの前で一人微笑んだ。


◇ロンドン サヴォイホテルの部屋用ティーセット
紅茶は数種類がティーバッグで用意されており、気分に合わせて楽しめる

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