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Cha Tea 紅茶教室 代表 立川 碧さん
第1回 「ティーボウルでのティータイム」

はじめまして。Cha Tea 紅茶教室代表の立川と申します。
この度エインズレイ様のご好意により「英国」「紅茶」「ティーカップ」などにまつわるお話しを
させて頂けることになり、とても嬉しく思っています。

友人に誘われ、「美味しい紅茶が飲めれば良いかな」と言う気軽な気持ちで飛び込んだ紅茶の世界は、
西洋陶磁器、アンティーク、絵画、旅・・・私にたくさんの楽しみを与えてくれました。
こちらのコラムでは、「アンティーク画の中のティータイム」をテーマに、
私の大好きな紅茶とティーカップの文化を紹介していこうと思っています。

それでは、早速1枚目のアンティーク画をご紹介していきましょう。
1枚目の肖像画は「モーニング」というタイトルがついている
1758年に発表された寝室内でのティータイムをテーマにした作品です。

お茶は、この絵が描かれたよりも150年ほど前の1610年に、
大航海時代の覇者であったオランダ、ポルトガルの貿易船により、
中国・日本の特産物として西洋に紹介されました。
当時輸入されていたお茶は、「緑茶」と、現在の「烏龍茶」に近いボヒーと呼ばれる半発酵茶でした。
未知の存在のお茶は17世紀には「薬」として、
18世紀に入ると健康に良い高級な嗜好品として、上流階級社会に認知されるようになりました。

絵の中の茶道具に注目してみましょう。
女性の手には、「ティーボウル」と呼ばれる持ち手のない茶器が握られています。
彼女の手の大きさから見ると、ティーボウルの形状が現在のティーカップよりも
小ぶりであることがうかがえます。
ティーポットも同様です。
お茶は非常に高価な飲み物でしたので、初期の頃の茶道具は全てが小さく制作されていました。

絵の中にはミルクピッチャーも描かれており、すでにミルクティーの文化が浸透していたことが分かります。
貴重品であったお砂糖の入っているボウルには、純銀のお砂糖をつかむニッパーが添えられています。

そしてテーブルの上にはバター付きのパンが。
もともと薬として入ってきたお茶は朝一番の空腹な胃にお茶は刺激が強すぎるため、
必ず小腹を満たすバター付きのパンと提供されました。
貴重なお茶を朝起き抜けから飲むことは、上流階級社会の特権だったこの時代です、
優しい顔つきの彼女は、相当な身分であったことがうかがわれます。

さて、この肖像画が描かれたのは、エインズレイ窯はちょうど産声を上げたばかり。
人々の中に浸透していった喫茶の習慣は、
英国の陶磁器産業への興味関心をも盛り上げていきました。
エインズレイの創設者ジョン・エインズレイも
そんな時代の流れに乗り志を貫いた陶工家の一人でもありました。
しかし残念ながら、当時のエインズレイ窯はとても小さな工房でした。
そのため、現存している初期作品はとても少なく、
私は彼の制作したティーボウルを見たことはありません。
しかし、どこかにジョン・エインズレイの作った作品で
ティータイムを楽しむ人々の絵画が残っている可能性がないとは言えません。
もしそんな1枚を見つけたら、当時の人々のティータイムをより身近に感じられることができるかもしれませんね。

次に2枚目の絵をご紹介しましょう。
こちらのアンティーク画は1760年代のハプスブルク領地内での茶会のシーンを描いたものです。

左手にチェンバロが描かれていますが、演奏しているのは幼少時代のモーツァルトです。
モーツァルトの音楽を楽しみながら、人々は茶会を楽しんでいる・・・一見良くある茶会の風景なのですが、
こちらの絵には、当時を象徴するお茶のマナー「お茶を受け皿に移して飲む」、その瞬間がとらえられています。

「お茶を受け皿に移して飲む」習慣は喫茶大国であった当時のオランダ宮廷から発祥し、
英国をはじめ、フランス、ドイツ、オーストリア、果てはロシアまで広く浸透したと言われています。
左手を添えて茶器を持つ習慣のなかった西洋人にとって、湯呑みのスタイルのティーボウルを使用し、
熱湯で淹れたお茶を片手で飲むことは難易度が高く、
次第に茶液を皿に写して飲むスタイルが定着したとされています。

絵の中央の女性に注目して見て下さい。
こちらの女性は当時のマナー通り、お茶を受け皿に移して飲んでいるところです。

英国の紅茶文化の楽しさは、
このように当時の人々の習慣を今の私たちが垣間見られる「絵画」や「茶器」が
現在もアンティーク品として数多く継承されている所にもあるのではないかと思います。
湯呑みのスタイルであった「ティーボウル」が「ティーカップ」へ進化し、
緑茶、烏龍茶が「紅茶」へと発展していく時代の流れを、絵画は瞬間的に捉え、
現在の私たちに当時の文化を伝えてくれるのです。

サロンにある数百枚の紅茶にまつわるアンティーク画の中から、
次はどの一枚を皆さまにご紹介しようか、ワクワクしています。
次回もぜひお付き合い下さい。

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