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第3回 「紅茶は誰もが飲むことができ、平等に楽しむことができる」

 ロンドンから北へ約100キロのベッドフォードシャーに、400年以上に亘って
引き継がれてきた"ウォーバンアビー"と呼ばれるベッドフォード公爵邸があります。
 キリン午後の紅茶のシンボルマークにもなっている、7代目ベッドフォード公爵夫人、
アンナマリア・スタンホープ(1788〜1860)が、公爵邸の応接間、ブルードローイングルームで、
紅茶とサンドイッチや焼き菓子を食べ、そこからアフタヌーンティーが広まっていった場所です。

 今から13年も前、イギリス人のつてを辿って、アンナマリアの末裔に
あたる14代目公爵夫人のレディータビストックに会えるチャンスを得ました。
当日の朝は緊張のあまり、私を含む数十名の一行は、誰も食事が喉を通らないほどで、
約束の時間よりも早く公爵邸に到着し、待っていました。

 ところが、公爵夫人の執事がやってきて、
「本日はバキンガム宮殿から急なお客様があり、夫人は皆様にお会いできなくなりました」
 あまりのショックで立っていられないほどでした。呆然としていると、別の執事がやってきて、
「公爵夫人の代わりに、本日はタビストック公爵がおられますので、お会いするとのことです。
ただし、公爵は難病を患っておられるので、面会時間は20分にしてください」
 1分でも2分でもいい。このために必死の思いで準備し、イギリスに来たのだから、
しかも、公爵にお会いできるとは願ったり叶ったりです。

 数十分後、手の甲に点滴の大きなばんそうこうを貼った公爵が笑みいっぱいに現れました。
「今日は私ですみません。夫人の代わりが務まりますか」
われわれの緊張を和らげるジョークです。できれば抱きつきたいほどでした。

 あっという間の20分、そして40分が過ぎ、執事が険しい顔でそわそわしています。
 しかし、公爵は一人ずつと握手をし、ツーショットで写真を撮り、質問に答えてくれました。
「日本では紅茶容器のシンボルマークになるほど有名ですが、
アフタヌーンティーの創始者の末裔としてどう思いますか」
「そんなに有名とは知りませんでした。紅茶は誰でも飲むことができ、
平等に楽しめるのが素晴らしい」

 別れ際、
「本来なら一緒にアフタヌーンティーをしたいのですが、邸内のホテルに
用意してあります。楽しんでください」

 敷地の中にあるベッドフォード・アームスホテルに紅茶とフードが用意されていました。

 やっと空腹に気が付き、そして食べたサンドイッチの美味しかったこと。
小さな花柄の器に盛られていました。

 14代目タビストック公爵はその3年後に亡くなられ、
現在は15代目アンドリュー公爵に引き継がれています。

 ペンブロックのサンドイッチトレイ、これにフィンガーサンドを盛って、また想い出します。

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