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第3回 「クリスマスと禁酒運動」

 底冷えする街、冷たい石造りの建物のせいでしょうか。
ロンドンの街は外は氷のように冷たく、中はティーポットの
ように暖かいと言われます。小雪が降るクリスマス、一家団欒の
ある家では、暖炉の前に家族が集います。

 ところがこの絵を見てください。薄着の少年がサンタクロースを
不思議そうに見上げています。

 「なんと、お前は私を誰だか知らないのか。 ああ、いい世の中
に変わらなければ」

 余りの貧しさに、少年は一度もサンタクロースからプレゼントを
もらったことがないのです。

 1830年頃、イギリスはビクトリア王朝時代の華やかで最強時代と
言われた反面、産業革命の中で、貧富の差は広がり、庶民の
生活や労働条件は悪化の一途をたどっていました。男たちは
一日に14,5時間も働き、あまりの疲労にパブに行っては、強い酒を
煽っていたのです。そのためアルコール中毒にかかる者が増え、
給料はまず、パブに持っていかれ、主人が一か月分の付けを
取った後、家族に渡されました。とても生活できるほどは
残っていないのがほとんどでした。

 そこで、社会を批判する声が上がり、事前運動がおこりました。
酒をやめ、そのお金で家庭生活を取り戻すこと。つまり、
禁酒運動です。ティートータル(tee'total) と呼ばれました。
tee' は、絶対に、という強意を表す言葉ですが、発音は
紅茶のティー(tea)に似ています。酒をやめて紅茶を飲めば
病気にもならず、パブにお金を取られることもなく、幸せ
になるというものです。

 1833年のクリスマスイブに、ロンドンのプレストンで開かれた
ティートータルのパーティーでは、長さ19メートルもの大テーブルが
用意され、1200人以上の大酒のみだった男たちが、禁酒を
誓って紅茶を飲みました。

 この時に売られたパーティーチケットは、1枚が6ペンスで、
集められたお金は、アルコール中毒にかかった父親を持つ
恵まれない子供たちに贈られました。

 この時期、ロンドンの市場を歩くと、真っ赤なコックスと呼ぶ
小さ目なリンゴが山のように積まれ、道端には樅の木が並び、
家ではお母さんが作ったクリスマスプディングが、
軒下にぶら下がってクリスマスの来るのを待っています。

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