第5回 「スリランカ・紅茶工場の朝」

 黒い紅茶の茶葉を見て、紅茶を作るのにどのくらいの
時間がかかっているのかと、よく聞かれます。元は緑の
生葉が黒くなるのですから、何日もかかっていると思われ
ても仕方ありません。ところが、実は茶摘みをしてから、
ほんの15,6時間で紅茶が生まれるのです。

 スリランカの紅茶工場に茶摘みさんたちが、手で摘んだ
生葉が集められてきます。それを風や温風を当てながら
水分を50パーセントくらい飛ばし、柔らかくなるまで萎らせる
のです。これに要する時間が12,3時間。つまり、午前中に
摘まれた生葉は、深夜になってから工場の機械に入れられます。
どうして萎らせるかというと、茶葉を揉むときに
少し萎れている方が揉みやすく、細かく千切れたりするのを
防ぐためです。

 手のひらに粘土を置いて丸めるときに、両手を円を描く
ように揉みますが、それと同じ動きをする揉捻機という機械で
茶葉を揉みます。20分から長くて40分くらい。これで
茶葉の繊維質が壊され、葉汁がでて、酸素と触れ合い、
酸化発酵するのです。酸化発酵というのは、リンゴをすりおろして
器に入れておくと、徐々に茶色に変色していきますが、その過程と
同じです。

 緑色の茶葉が黒みかかった深緑、そして、褐色になり、
黒っぽく変わっていくのです。そのまま放っておくと、水分が
多く、雑菌が増えて腐敗するので、1時間程したら、乾燥させます。
出てきた茶葉は黒みがかった褐色。紅茶色です。
色は黒くても、焦げた色ではなく、酸化発酵した色なのです。
重要なのは、乾燥させる時の温度で、95〜98度Cに保た
れた乾燥機に20分程入れ、ゆっくり乾燥させます。すると
水分はほぼ完全に抜けて、からからに乾いた茶葉に仕上がります。
これが紅茶です。

 スリランカには紅茶工場が500箇所以上もあって、ほとんどは
深夜から紅茶作りが始まります。工場内の香りは、何とも言えない
いい香りで、緑っぽい草いきれ、バラの花や蘭の花の甘さ、
時には青りんごやブドウ、マンゴスチンのようなフルーツの
香りも感じます。

 夜明け近くになって、まだ暗い山道を子供たちが手に
松明を持って登校しているのを見かけます。子供たちが
学校に行ったら、今度はお母さんが茶摘みに出かけます。

 午前8時を過ぎると工場の機械は止まり、楽しそうな
笑い声や話が聞こえてきました。覗いてみると、皆が
集まって、出来立ての紅茶を飲んでいます。クジャクヤシ
の花から作った黒砂糖を齧り、ココナッツの白いカレー
をつまんでいます。
 一番楽しい紅茶工場のモーニングティーです。

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