第6回 「ヒマラヤから春の訪れ」

 紅茶と言えば誰でも御存知なのがダージリンです。
ヒマラヤ山脈を背景にして、西ベンガルの山岳地、
標高二千メートルの断崖にへばり付くようにあるのが
ダージリンの街です。

 ダージリンはチベット語で「雷の地」という意味があります。
山岳地の激しい気温の変化に伴い、一年を通して雷が発生するのです。

 ヒマラヤ山脈の影響を受け、12月から2月の下旬
までは霜が降り、気温は2〜3度Cまで下がります。
それが、3月に入ると、陽射しが春めいて茶葉に優しい光を当て、
新芽が伸びてきます。 長さが4,5センチにも満たない
新葉が付き、薄緑色の柔らかい葉が茶園のあちこちに出てきます。
ヒマラヤから春が運ばれてきたのです。

 かじかむ手に息を吹きかけて茶摘みさんが、やっと伸びた
新芽と新葉を探しながら摘んでいきます。一日摘んでも
数キログラムです。まだほんの少ししかなく、その年最初の
ファーストフラッシュと呼ぶ、ダージリンの一番茶です。

 春の陽射しは日一日と暖かさを増し、優しくなった風が
吹いて、茶葉の新芽をくすぐり、銀色の芽と新葉を育てます。
ファーストフラッシュはこの銀色の芽がまるで、シルバーのように
輝いて茶葉に混ざり、これがダージリンのきりっとして刺激的な
渋みに、とろりとした優しい風味を加えます。イギリス人が
絶賛したヒマラヤの春の風味、それは世界三大銘茶として
称えられているのです。

 ダージリンの街はどこからでも、青空に突き出るように
そびえるヒマラヤの山々が見えます。山群の主峰、標高
8586メートルのカンチェンジュンガは、まるで真夏の
入道雲のように目の前にそそり立ち、春の太陽に時には
白く、時にはピンク色に染まり、赤色にも、そして、金色にも
輝いて魅了します。

 淡く、橙色の薄黄色い水色。口に含むと快い刺激的な
渋み。白ワインを飲んだ時のようなフルーティーな香り
を感じます。この山岳地から世界中の人たちに届けるために、
ちいさなおもちゃのような蒸気機関車がイギリスから持ち込まれ
ました。その名もトイトレイン。人が歩くほどの速さで走り、
急な坂ではなかなか上れなくて立ち往生しています。

 機関車が行き過ぎると、空き地の少ない街人たちは、
線路の上に座ってチャイを楽しんでいます。春の陽射しは
ガラスのコップにも入って、紅茶が一段と甘く、優しくなるのです。

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