第4回 「リトルイングランドと呼ばれる街」

 スリランカの紅茶地帯で、最も標高の高い地区が
ヌワラエリヤです。南国のスリランカでもこの地は、
標高が1800メートルもあって、1年を通して涼しく、
朝夕の気温は摂氏2度まで下がることもあります。
一日に何度も霧がかかり、それを山風が吹き流し、
霧で濡れた紅茶の生葉を、直射日光が乾かします。

 ヌワラエリヤは19世紀の後半、茶園を開拓に
来たスコットランド人たちが、どこよりも愛した地
と言われました。涼しくて、空気が澄み、時には
霜が降りて冬のように寒くなり、まるで故郷の
スコットランドのような気候が味わえたからです。

 彼らはヌワラエリヤを小さな英国「リトルイングランド」
と呼んで街を造りました。ヒルクラブという農園主たちが
集まるクラブハウスを造り、本国で人気のある白っぽい
ハニーストーンという石に似た壁造りにして、イングリッシュ
ガーデンも造りました。 さらに、競馬場、ゴルフ場、
植物園、石造りの郵便局、銀行、ホテル、屋根には
煙突も付けてまるで本当のイギリスの街のようです。

 紅茶園の開拓はとても重労働で、危険も伴いました。
山にはたくさんの豹が出て、労働者に襲い掛かったり、
急斜面の畑では崖崩れも起こり、怪我や病気も
多かったのです。この街に下りてくると、まるで故郷に
帰ったかのように、懐かしく、安らいだのです。

 紅茶は標高の高い地で栽培すると、味や香りが
強くなり、個性的で高品質と言われてきました。
ヌワラエリヤの紅茶は、ハイグローウンティーと呼ばれ、
緑っぽいグリニッシュな香りに、スリランカのフルーツの
女王と言われるマンゴスティンに似た甘い香りが
混ざり、フルーティーなその香りが人気を呼び、高値で取引されました。

 開拓者は先を争って、高地へと向かっていました。
そのヌワラエリヤには、毎年1,2月頃になると、ベンガル湾
から吹きてくる季節風が、ウバ地区の山岳を抜けて、流れ込んで
きます。ウバ側では雨が多くなり、ヌワラエリヤには乾いた
冷たい風になり、乾季になります。風は霧を払い、直射日光が
濡れた生葉をさっと乾かすのです。その自然な刺激が
個性の強いヌワラエリヤの上質茶を生み出します。

 日本では1月はお正月も終わり、冬の真っただ中です。
ヌワラエリヤではお正月は4月、まだまだ先です。
ヌワラエリヤに1月の季節風が吹いて、クオリティーシーズンの
紅茶が表れ始めると、ヌワラエリヤの新年がスタートするのです。

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