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第1回 「ちょっと忘れられないティーカップ」

 日本で知り合いになったスリランカ人のセーナペレラさん。
数十年前、政府から派遣され、東京に住んでいました。
当時、鎌倉に住んでいた私はご一家を招待、湘南の海に遊びに行ったのです。
 インド洋とベンガル湾の海に囲まれたスリランカ、セーナさんは
遠くの国を懐かしむように、ずーっと見つめていました。
そして帰り際、
 「ついに帰国する日が迫ってきました。でも、私と家族はスリランカには帰らず、 オーストラリアに亡命しようと思います」
 数週間後にスリランカに行く予定だった私に、コロンボに住む妹への
手紙と、日本のお土産を渡してくれるよう、小さな包みを預かりました。
 コロンボに着いて妹さんの家を訪ねました。そこで出してくれた
紅茶、そのティーカップは縁が少し欠けて、ひびも入っていたのです。
でも、他のティーカップは新しくて無傷、なぜ客の私だけ欠けていて、
古びているのか。
 「このティーカップは亡くなった母親が、昔イギリスに行ったときに
買ったもので、とても想い出のあるものです。兄にはもう会えないので
代わりにイソブチさんに飲んでもらいたいです」
 一番大切な思い出のカップを出してくれたのです。そのカップに
描かれていた模様の中に、確か、小さな小鳥がいました。

 エインズレイのペンブロックのティーカップ、花と木の中にブルーの
小鳥が描かれています。イギリスの南ウエールズにペンブルック城が
あります。1457年にヘンリー7世がこの城で生まれ、育ったと言われて
います。そしてもう一つ、この城には日本の伊万里焼の壺があり、
その絵柄が、「花と木と鳥」だったそうです。
エインズレイのペンブロックシリーズのデザインはそれを模したものと
伝えられています。
 お城に住む人々はどんな想いでこの絵を見たでしょうか。私は
セーナペレラさんと妹さんをちょっと、想い出しました。

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